VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

満員御礼:第2回 価値に基づく診療(Values-based practice)実践ワークショップ参加者募集終了のお知らせ

 

第2回 価値に基づく診療(Values-based practice)実践ワークショップは、お陰様を持ちまして、参加希望が定員に達しましたので、募集を終了させて頂きました。

多数のご応募誠にありがとうございました。

 

第3回ワークショップは平成29年3月2日〜3日の第9回日本医療教授システム学会総会との共催での企画を準備しております。今年最も熱い広島での開催となります!

http://jsish.jp/mtg/program/

詳細決まり次第こちらのブログとFBにてご案内申し上げます。

今回、参加頂けなかった皆様におかれましては、こちらのブログをチェック頂くか、Facebook pageを「いいね」頂くと、募集案内された際にスムーズにお知らせが届くかと存じます。

 

お陰様を持ちまして本ブログはこれまでに5000を超えるアクセスを頂いております。

今後も皆様とともにVBPを学んで行ければと考えております。

EBMはVBPのパートナーPart1〜二本の足の原則〜

 今回は、VBPの10のプロセスの7つ目、二本の足の原則についてご紹介する。

 これは「サイエンスとVBP」というカテゴリーに分類される。二本の足の原則は、「エビデンスを考えるときには、価値も同時に考えよ」というメッセージである。すなわち、エビデンスという足、価値というもう1本の足の双方に重心を置きなさい、という意味である。

 これは当人中心の診療 Part 2の事例で考えると分かりやすい。

 上気道炎症状で一般内科外来を受診した若年男性が抗菌薬の処方を希望するも、医師がエビデンスはないとして対症療法で経過観察の方針を持ちかけたところ、医師・患者関係が破綻した。実は、男性が抗菌薬を希望する背景として、副鼻腔炎への進展の懸念があったものの、忙しい外来のために医師がその患者の価値に到達できなかったという事例である。

 したがって、エビデンスに焦点を当てているときには、価値にも注意を払うという教訓が示される。

 ここで、1つの疑問が生じる。Sakettが提唱したEBMの定義、「研究結果から最も優れた根拠と臨床家としての専門性と患者の価値とを統合すること」と二本の足の原則はどう異なるのか、ということである。

 この違いは当人中人の診療 part1でも論じたように、VBPでは医療者の価値にも注目していることにあると思われる。上記事例で言うと、医師が自身の「感冒には抗菌薬を処方しない」価値に気づき、二本の足の原則を意識することで、当人中心の診療 Part4のようなディスセンサスに到達することができる。ただ、本質的にはEBMとVBPはオーバーラップする部分も多く、その意味で「EBMはVBPの重要なパートナー」として、その密接性が強調されている。

 

 蛇足とはなりますが、第1回 VBP実践ワークショップの参加者のお一人(家庭医の方)から、こんなコメントを頂きました。

「家庭医療学の『患者中心の医療(PCM)』とVBPとは、どう違うんだろうと考えたときに、PCMを議論するときには医療者は、ときに主観を言わない(言えない)透明人間のような存在になることがある。そういう意味ではVBPの医療者の価値を明示する姿勢は新鮮だった。」

 医療者の価値を無視しない、むしろ注目するという姿勢がVBPの特徴の1つと、我々のチームは考えておりますので、大変嬉しいご意見でございました。

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多職種チームワーク

前回までVBPにおける専門職同士の関係性に関わる2つの側面のうちの1つ目、当人の価値中心の医療を4回シリーズでご紹介した。今回は2つの側面の2点目、多職種チームワークを概説する。これはVBPの10のプロセスの6段階目に位置付けられている。

近年、多職種連携(Inter-professional Work: IPW)が注目されている。その背景としては医療の複雑化・高度化により表面化してきた以下の要素が論じられている(文献1)。

 1) 個人で仕事を行うことの限界性

 2) 専門職の縦割りで業務を行うことの限界性

 3)  「患者の疾病」のように、領域を一つに絞って医療を行うことの限界性

IPWとVBPは親和性が高いとされているが、そこには価値が多分に関与している。VBPはバランスのとれた意思決定をゴールとした枠組みであるが、そのためには、多様性のある様々な価値の視点(perspective)からの議論が重要である。異なる価値が存するためには「チームであること」が必要不可欠であり、異なった専門職による役割と背景が目を見張るような異なった価値をその場にもたらすことがある(文献2)。すなわち、異なった専門職が結集することによりチームが有する知識や技術が向上するだけでなく、チームとしての価値のキャパシティーが広がり、チームメンバーの多様な価値を効率的に活用した診療が実現できる。

2016年に日本国内のIPWの専門家らにより、「医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー」が定められた(文献3)。そのコアドメインの1つとして、職種間コミュニケーションを挙げ、「患者・サービス利用者・家族・コミュニティのために、職種背景が異なることに配慮し、互いに、互いについて、互いから職種としての役割、知識、意見、価値観を伝え合うことかができる。」と説明しているのは、非常に興味深い。

かつては、専門職間の価値の違いは「壁」と称され、IPWが発展しない要因とも考察されていたが、価値が異なることはむしろIPWの強みでもあると言えるかもしれない。そして、言うまでもなく、多職種チームワークはVBPの要である。

そういった背景から、我々のグループが主催しているVBP実践ワークショップでは、模擬多職種カンファをコアコンテンツと定めています。次回は来月の12/7(1枠空いております)、その次は3月に広島で予定しております。ふるってご参加ください。

 

文献1:佐伯知子. IPE (InterProfessional Education) をめぐる経緯と現状, 課題: 医療専門職養成の動向を中心に. 京都大学生涯教育フィールド研究 2:9-19, 2014

文献2:Colombo, A., et al. "Evaluating the influence of implicit models of mental disorder on processes of shared decision making within community-based multi-disciplinary teams." Social science & medicine 56.7 (2003): 1557-1570.

文献3:多職種連携コンテンシー開発チーム. 医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー . Available from: http://www.hosp.tsukuba.ac.jp/mirai_iryo/pdf/Interprofessional_Competency_in_Japan_ver15.pdf