VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

御礼:第4回 VBPワークショップ (@プライマリケア連合学会 in高松)

去る5/12(金)、プライマリケア連合学会プレコングレスワークショップとして第4回VBP実践ワークショップが開催されました。今回は、模擬多職種カンファランスの事例を新たなものを使用し、医師・薬剤師・理学療法士作業療法士などバラエティーに富んだ職種の皆様にご参加いただき、下記の目標とコンテンツで開催しました。 

ワークショップの目標

  1. VBPの10のプロセスを理解する
  2. 価値の多様性を理解できる
  3. 患者の価値を引き出すスキル(ICE-StAR)の重要性を知る
  4. VBPにおける多職種での議論が有用であると知る

コンテンツ

レクチャー「価値に基づく医療の概要と10のプロセス」 

模擬多職種カンファレンス(前半)

レクチャー「ICE-StAR」

模擬多職種カンファレンス(後半)

FB pageでWSの様子をご覧いただけます。

 

参加者の皆様のご感想

「価値の大切さに気づいた」

「PCCM(患者中心の医療)との違いがわかった」

「多職種による視点の違いが実感できた」

「普段何気なく行っていることに理論があったことが分かった」

 

積極的なご参加、ご議論を頂くともにWSに高い評価も頂き主催者も大変嬉しく思っております。今回は新しい事例を用いて模擬多職種カンファレンス実施致しました。今回得られた改善点をもとにさらにバージョンアップしていきたいと思っております。次回は都内での開催を予定しておりますので、またこちらでご案内致します。

今後も、価値に基づく診療を皆様と一緒に学んでいければと思っております。

いよいよ明後日!! VBPワークシップ(@プライマリケア連合学会:高松)

第8回日本プライマリ・ケア連合学会学術集会プレコングレスワークショップ(Pre-WS14)として、価値に基づく診療ワークショップが開催されます。

事前登録は締め切られておりますが、見学は自由となっておりますので皆様お立ち寄りください。今回よりバージョンアップしますので、過去に参加された皆さまもお楽しみいただけます!

事前登録をお済ませの方は、本ブログの過去の記事を通読頂けるとWSの理解が深まるかと存じます。

  • 日時

2017年5月12日(金)15:00~18:00

  • 会場 

サンポート高松 ホール棟7F 第3リハーサル室

http://www2.c-linkage.co.jp/jpca2017/access/

【開催の目的】
価値に基づく診療(values-based practice: VBP)は、臨床上の意思決定をより系統的に行うために、新たに英国で拡がりつつある方法です。特に複雑事例に対する方針を考える上で、根拠に基づく診療と 両輪で視座を提供してくれます。

このワークショップでは、価値の多様性を理解すること、価値を引き出すスキルを獲得すること、多 職種での議論の重要性を認識することといった目標を達成していただきます。

【概要】

VBP には、1.気づき、2.推論、3.知識、4.コミュニケーション技法、5.当人中心の診療、6.多職種チームワーク、7.二本の足の原則、8.軋む車輪の原則、9.科学主導の原則、10.パートナーシップという10 のプロセスが提唱されています。これらにより、価値の違いに対する相互の敬意を持った関係者によ り、共有された価値という枠組みにおけるバランスのとれた意思決定を行うことがゴールとなります。

このワークショップは、各自の価値を知るためのアイスブレーキング、複雑事例に対する模擬多職種 カンファレンスの2部構成となっています。これらの取り組みを通じて、VBP の意義を理解し、各自が それぞれの現場において多職種カンファレンスを開催する際のヒントを体得していただきたいと願っています。

 

 これまでの様子は、こちらをご覧ください。

 皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

  • オーガナイザー

東京大学医学系研究科 医学教育国際研究センター 講師 大西弘高

東京大学医学系研究科 医学教育国際研究センター 客員研究員 野村理

 

  • 参考学習資料

ブログ:VBP的診療推論. http://vbp.hatenablog.com

Facebook page : https://www.facebook.com/VBPed/

書籍:大西弘高, 尾藤誠司. 価値に基づく診療 VBP実践のための10のプロセス. MEDSI.

  • 書籍の購入は必須ではありませんが、お持ちの場合はご持参ください。
  • ブログはご受講前にご覧ください。

治療・マネジメントも含めた臨床推論モデル:Three-Layer Cognitive Model

まずは、前回の復習をしてみよう。

臨床推論の定義は、臨床推論の定義は「患者の生じた健康問題を明らかにし、どのような対応をすべきか意思決定するために、問題点を予測し、論じること」であった。すなわち、患者の臨床問題の解決が、臨床推論の核となる。

ここで、問題解決とは何かを考察する。認知心理学などでは、「問題の同定」、「情報収集と整理」、「仮説設定」、「仮説検証」、「解決策の利用」といったプロセスが提唱されている。このそれぞれのステップを臨床推論の文脈に当てはめると、「主訴」、「面接・診察・検査」、「診断仮説」、「鑑別診断・確認」、「治療・マネジメント」となる。

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患者の主訴を同定したのちに、医療面接・身体診察・各種検査により情報収集を行い、「心原性の胸痛っぽい」というような何らかのカテゴリーを用いた診断仮説が設定され、想起された鑑別診断を検討する仮説検証のステップに入る。このとき、情報収集・仮説設定・仮説検証は鑑別診断を何度も検討するための繰り返しの(iterative)プロセスが必要である。

例えば、患者に対しopen questionし、10秒後に診断仮説が想起される。さらなる情報を聞きつつ対立仮説を2、3個さらに想起し、それに基づいてclosed questionを行う。さらに状況に応じて診察や検査を加え、鑑別診断のrule in/rule outを繰り返すことで確定診断に至る。これらの結果をもとに治療、場合によってはさらなるセルフケアの指示や経過観察などのマネジメントを行うこととなる。これらが、問題解決という視点から捉えた臨床推論の枠組みとなる。

しかしながら、実臨床は治療・マネジメントで完結するわけではなく、その治療介入を実施するかの患者との対話、治療介入結果の評価、そして評価後に治療継続の可否を検討し、その方向性を再度患者と対話するなどの、何層にもわたる推論が行われる。2016年に大西は、それらのプロセスを包括した「治療・マネジメントも含めた臨床推論モデル:Three-Layer Cognitive (TLC) Model」を提唱した。

これは、臨床の相(phase)が進むにつれ、①診断→②介入(治療・マネジメントなど)→③介入後のモニタリング、というふうに臨床推論の様相が変化するということを意味するだけではない。経験豊富で優れた医師は、①の層において、②や③のことも考えているという意味である。

例えば、②に関する大方針として、痛みの症状が「がん」によるものであれば、治療などはしないと決めている患者がいたと仮定する。そうすれば、①については「がん」かどうかは重要だが、その合併症や転移については苦しい検査をしなくてもよいことになる。また、痛みに対しては痛み止めの処方を提案するが、例えば麻薬処方の副次効果としての便秘が予測されるが大丈夫か、といった点についても患者と共に事前に摺り合わせするといったことも事前から考えておくことになる。

これらの視点からこのTLCモデルをご覧いただき、皆様の実臨床での推論と重ねて、是非振り返って頂ければと思う。次回以降、皆様とこのモデルを少しずつ紐解いていきたい。

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大西弘高. The 臨床推論. 南山堂.2012.東京.

大西弘高. 第10回 「外傷だ~. これは, すぐに頭部CTだ~」……ではないよ! 治療.98(5):754-757,2016.