VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

当人中心の診療 Part 1

 これまでは、VBPの10のプロセスのうち、4つの臨床スキルに焦点を当て学んだ。次のステップとして、専門職同士の関係性に関わる2つの側面が位置付けられ、これは当人中心の診療多職種チームワークから成る。今回から4回に分けて、当人中心の診療についてご説明したい。

 当人中心の診療と聞くと、家庭医療学における方法論である「患者中心の医療(patient-centered medicine)」を思い浮かべる方も多いかもしれない。患者中心の医療というモデルは、1980年代にカナダのウェスタン・オンタリオ大学のStewartとMcWhinny らにより開発された以下の6つ要素から構成される臨床手法である。

1.疾患と病い両方の経験を探る

2.地域・家族を含め全人的に理解する

3.共通の理解基盤を見いだす

4.診療に予防・健康増進を取り入れる

5.患者−医師関係を強化する

6.実際に実行可能であること

 

 さて、VBPにおける当人中心の診療とは、当人の価値中心の診療(person-values-centered practice)を指す。そして、当人とは患者(patient)だけでなく、患者に関わるすべてのそれぞれの人(person)を指す。すなわち、患者の価値に注目すると同時に、関係する人々(医師、看護師をはじめとするその他の医療従事者、患者家族など)の価値に気づき、それを反映する診療を実践することである。したがって、患者とその周囲の人々の価値に焦点を当てているという点から、VBPにおける当人中心(person-centered)という考え方は患者中心(patient-centerd)という姿勢を内包する概念とも言えるかもしれない。 

 当人の価値中心の診療のためには、相互理解(mutual understanding)を促し、価値の対立(conflicting values)に対応することが求められる。

 相互理解を達成するためには、これまでご紹介した4つの臨床スキルが効果を発揮する。しかし、それだけでは十分ではなく、今後ご紹介する「多職種チームワーク」、「パートナーシップ」を通じて価値の対立を解決することで、当人の価値中心の医療に向かうことができるとされる

 次回は、身近な事例を通じて、VBPにおける当人中心の診療について考えたい。

参考文献)

Patient-Centered Medicine: Transforming the Clinical Method – 2nd Ed. Stewart, M. Brown, JB et al. 2003.

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