VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

意思決定におけるパートナーシップ〜ディスセンサス〜

 今回は、VBPの10プロセスの最後、「パートナーシップ」である。

ここでのキーワードは「ディスセンサス」に尽きる。一般に、会議などの議論の場では、そのテーマについての「コンセンサス」が得られることが主眼とされる。議論をかわす過程で、それぞれの考え(価値)の中で共通した事柄を抽出し、共通認識とすることがコンセンサスである。これは、Evidence based Practiceと親和性が高いことが感覚的に理解できる。例えば、5年ごとに改定される各国の蘇生ガイドラインの基となる、国際的なエキスパートが最新のエビデンスを集めて議論を重ねて作成する文書は"Consensus on Science with Treatment Recommendations"と名付けられている。これらは、それぞれのエビデンスや専門家の意見の共通項を結集したものであり、共通しなかった事柄に言及されることはない。価値という観点から論じると、コンセンサス形成の過程では、それぞれの価値の差異が解消されることを意味する。

 一方、VBPにおけるディスセンサスは、お互いが同意できないことについて合意することを意味し、価値の差異はそのままに、それぞれの特異的な状況に応じてバランスをとることである。

 最小公倍数と最大公約数との関係に例えるとわかりやすいかもしれない。映画「君の名は」の主題歌を歌うRADWIMPS「最大公約数」という歌にこんなフレーズがあります。

「何を求めるでもなく 意味を添えるでもなく つまりは探しにいこう 二人の最大公約数を 僕は僕で君は君 その間には無限にあるはずだよ 二人だけの最大公約数」

 VBPは当人のケアに関わるすべての人の価値の最大公約数を探しにいくプロセスと言っても良いでしょうか。

 

 さて、ここでVBPの10のプロセスを振り返ってみます。まず、4つの臨床スキル(気づき・推論・知識・コミュニケーション)を用いて価値情報を集め、次いで、専門職同士の関係性(当人の価値中心の医療・多職種チームワーク)の中で議論を深め、科学とVBP(二本の足の原則・軋む車輪の原則・科学主導の原則)の中でエビデンスや科学とのバランスを熟考する。そして、ディスセンサスに基づいたパートナーシップにより到達点(落とし所)を模索する、というのがプロセスとまとめることができる。

 今回で、10のプロセスの概説を終えることができました。読者の皆様ありがとうございます。本ブログのアクセス数ももう少しでなんと10,000に達します。

今後は、本ブログタイトル通り、「臨床推論」について考えていきたいと思っています。

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