VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

治療・マネジメントも含めた臨床推論モデル:Three-Layer Cognitive Model

まずは、前回の復習をしてみよう。

臨床推論の定義は、臨床推論の定義は「患者の生じた健康問題を明らかにし、どのような対応をすべきか意思決定するために、問題点を予測し、論じること」であった。すなわち、患者の臨床問題の解決が、臨床推論の核となる。

ここで、問題解決とは何かを考察する。認知心理学などでは、「問題の同定」、「情報収集と整理」、「仮説設定」、「仮説検証」、「解決策の利用」といったプロセスが提唱されている。このそれぞれのステップを臨床推論の文脈に当てはめると、「主訴」、「面接・診察・検査」、「診断仮説」、「鑑別診断・確認」、「治療・マネジメント」となる。

f:id:VBP:20170419110912j:plain

患者の主訴を同定したのちに、医療面接・身体診察・各種検査により情報収集を行い、「心原性の胸痛っぽい」というような何らかのカテゴリーを用いた診断仮説が設定され、想起された鑑別診断を検討する仮説検証のステップに入る。このとき、情報収集・仮説設定・仮説検証は鑑別診断を何度も検討するための繰り返しの(iterative)プロセスが必要である。

例えば、患者に対しopen questionし、10秒後に診断仮説が想起される。さらなる情報を聞きつつ対立仮説を2、3個さらに想起し、それに基づいてclosed questionを行う。さらに状況に応じて診察や検査を加え、鑑別診断のrule in/rule outを繰り返すことで確定診断に至る。これらの結果をもとに治療、場合によってはさらなるセルフケアの指示や経過観察などのマネジメントを行うこととなる。これらが、問題解決という視点から捉えた臨床推論の枠組みとなる。

しかしながら、実臨床は治療・マネジメントで完結するわけではなく、その治療介入を実施するかの患者との対話、治療介入結果の評価、そして評価後に治療継続の可否を検討し、その方向性を再度患者と対話するなどの、何層にもわたる推論が行われる。2016年に大西は、それらのプロセスを包括した「治療・マネジメントも含めた臨床推論モデル:Three-Layer Cognitive (TLC) Model」を提唱した。

これは、臨床の相(phase)が進むにつれ、①診断→②介入(治療・マネジメントなど)→③介入後のモニタリング、というふうに臨床推論の様相が変化するということを意味するだけではない。経験豊富で優れた医師は、①の層において、②や③のことも考えているという意味である。

例えば、②に関する大方針として、痛みの症状が「がん」によるものであれば、治療などはしないと決めている患者がいたと仮定する。そうすれば、①については「がん」かどうかは重要だが、その合併症や転移については苦しい検査をしなくてもよいことになる。また、痛みに対しては痛み止めの処方を提案するが、例えば麻薬処方の副次効果としての便秘が予測されるが大丈夫か、といった点についても患者と共に事前に摺り合わせするといったことも事前から考えておくことになる。

これらの視点からこのTLCモデルをご覧いただき、皆様の実臨床での推論と重ねて、是非振り返って頂ければと思う。次回以降、皆様とこのモデルを少しずつ紐解いていきたい。

f:id:VBP:20170419110938j:plain

 

大西弘高. The 臨床推論. 南山堂.2012.東京.

大西弘高. 第10回 「外傷だ~. これは, すぐに頭部CTだ~」……ではないよ! 治療.98(5):754-757,2016.