VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

推論

 4つの臨床スキルの2つ目である推論(reasoning)の方法論として、VBPでは事例検討が推奨されている。

 事例検討はJonsen, A.R.とToulmin,Sとが「生命倫理に関する米国大統領府委員会」での経験をもとに考案し(1988年)、その後、臨床の場で利用できるように再構築されてきた。

 JonsenとToulminは、医療の倫理的問題を議論する際には、そのことが「なぜ」なされたのかを悩むのではなく、「何が」なされたのか、その事例の詳細について没頭して考えることが重要と結論付けている。

 臨床家が事例検討により省察する際には以下の2点を自問自答すると良い。

  1. 悩んでいる事例において何を改善すると、次にやるべきことが明確になるだろうか?(まずは1つだけ改善点を考えてみると良い)
  2. 倫理的観点から、この事例を他の関連する事例と比較することで、何か見えてくるものはあるだろうか?

 事例検討は、倫理的な正しい解決策を導き出すよりも、与えられた状況下で影響を及ぼす価値の理解に対する視野を広げ、省察を促すことが主たる目的であり、No blame cultureが原則と考えられる。

 一方、推論の手法として、事例検討がバイアスや偏見を増強する可能性も指摘されており(Kopeman,1994年)、状況に応じて、「原則に基づく推論」、「功利主義」などの他の推論方法(注)を用いることが求められる。また、複数の別の立場の医療者を交えた多職種で事例検討することもバイアスや偏見の制御に有効である。

注) 原則に基づく推論(principle reasonings)

  :何らかの倫理的原則(例えば、新ミレニアム医師憲章、ジュネーブ宣言、

   ヒポクラテスの誓いなど)に則り、ある事例を演繹的に検討すること。

   功利主義(utilitarianism)

  :社会全体の最大幸福の総和を最大化するという考え方。

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