VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

御礼:第7回VBPワークショップのご報告

 11/18()東京大学本郷キャンパスにて第7VBP実践ワークショップを開催いたしました。
 今回から新しい企画として、模擬患者さんとの「2回目」の多職種カンファレンスの時間を設けました!1回目の多職種カンファレンスの省察を活かして、2回目の多職種カンファレンスに挑んでいただく時間になります。

これは皆様の感想の中でも好評をいただけたようで、主催者も事前カンファレンスでは多職種の“values(価値観)”の違いを実感し、1回目の多職種カンファレンスでは模擬患者(ご家族)さんの“values(価値観)”を把握し、最後にはICE-SARを考慮して意思決定まで結びつける、という一連の流れが出来上がってきたと感じています。
 医師・獣医師・看護師(助産)・薬剤師・医療系学生など様々な職種の皆様にご参加いただき、下記の目標とコンテンツで開催いたしました。

 

ワークショップの目標

  1.  価値の多様性が重要であると認識する。
  2.  多職種での議論の重要性と難しさを認識する

 

コンテンツ

  • レクチャー「価値に基づく医療1」
  • 模擬多職種カンファレンス(前半)
  • 模擬多職種カンファレンス(後半 1回目)
  • レクチャー「価値に基づく医療2」
  • 模擬多職種カンファレンス(後半 2回目)

 

参加者の皆様のご感想

・勉強になりました。実際に実行したい。

2回できたことはとてもよかったです。見直しのチャンスをいただけた気がします。

・実際の難しさ(書籍ではわからない)や人と人との考え方をコンセンサスしない難しさを垣間見ることができました。

・普段行っている意思決定支援の際に感じる”もやもやとした感じ”の背景に医療者の価値観が関与している可能性を実感した。

 

次回は、来年2月10日~11日に東京大学本郷キャンパスにて開催されます日本プライマリケア学会 第13回若手医師のための家庭医療学冬季セミナーにてワークショップを予定しております!本セミナーに参加される方はぜひ奮ってご参加下さい!

治療における臨床推論②

前回は治療内容を決定するまでの大まかな推論プロセスを見てきたが、実際の現場では決定した治療やマネジメントを開始したあとから、再度情報収集や整理をし、鑑別診断や重症度、治療内容を吟味しなおすことがある。TLC modelで言い換えると『介入と評価の過程』の結果をうけてから、『介入対象同定過程』ならびに『介入内容決定過程』に影響を及ぼすことがある。

このような形をとる最たる例として、「治療的診断(=診断的治療)」があり、今回はこれについて詳しくみていこう。

 

治療的診断とは、いくつかの診断仮説のうち、ある特定の診断を対象にしてその治療を行い、効果があればその診断と考えてよいだろうと結論づけるプロセスである。例えば、慢性咳嗽の患者において、ステロイド吸入を開始して改善すれば咳喘息、ヒスタミンH1受容体拮抗剤を投与して改善すればアレルギー性鼻炎による後鼻漏症候群、PPIを投与して改善すれば逆流性食道炎などと判断する。

 

治療的診断が行われるのは以下の条件を満たす場合とされている

1.     病歴、診察、検査によって診断が確定しにくい、または治療による副作用が診断の確度を高めなければならないほどは大きくない

2.      鑑別すべきほかの診断と効果が重ならない

3.     治療効果の指標となる症状や所見がフォローアップしやすい

 

これらの条件については個々の患者によって、背景、挙げられる鑑別診断、重症度、検査に伴うリスク、フォローアップ可能な状況かどうかなど状況が異なってくるため、1つ1つ個別に検討していく必要がある。例えば、健常者では今後も長く生きることを考えると行っておくべきスクリーニングや予防的介入であったとしても、超高齢者や終末期の患者においては、検査にかかる苦痛や合併症が強い場合は検査よりも治療的診断が優先されるかもしれない。

また、この診断過程は注意すべき点があり、プラセボ効果や自然経過での軽快により、実際には効果がないのにも関わらず「効果あり」と考え、想定した診断を確定してしまうことは誤診の原因につながる可能性がある。このような「使った、治った、効いた」という「3た論法」に陥っていないかは常に振り返る必要があり、どのような経過で改善したのか長期的な経過をみてみないとわからないことも多いことは注意が必要である。

 このように、治療のおける臨床推論では、『介入対象同定過程』、『介入内容決定過程』、『介入の評価の過程』が同時にかつ相互に影響して変化するダイナミックなものであることが分かっていただけたと思う。

 

 

参考文献:Glasziou P, Rose P, Heneghan C, et al : Diagnosis using "test of treatment". BMJ. 338: b1312. 2009

 

1118日の第7VBPワークショップ@東京大学は引き続き募集をしております。皆さん奮ってご参加下さい!申し込みの詳細は以下の記事よりお願いします。

募集:第7回価値に基づく診療実践ワークショップ参加者募集のご案内 - VBP的臨床推論

 

 

治療における臨床推論①

しばらく期間が空いてしまったが、臨床推論(clinical reasoning)についての基本的な理論の話の続きとして、「治療における臨床推論」について前回までの復習と一緒に見ていこう。

 

まず、前々回の復習になるが、臨床の流れとして、①診断 → ②介入(治療・マネジメントなど) → ③介入後のモニタリング、と変化していき、これらの推論の過程はそれぞれ、①『介入対象同定過程』 → ②『介入内容決定過程』 → ③『介入と評価の過程』と各層に分けることができた。そして、これらの層は完全に独立しているわけではなく、経験豊富な優秀な医師であれば、①の層において②や③の層のことも同時に相互に考えることができ、この認知モデルはThree-Layer Cognitive(TLC) Modelとして表現できた。

 

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今回は特に『介入内容決定過程』から『介入と評価の過程』に関わる「治療における臨床推論」に着目してTLCモデルを詳しく見ていこう。

 

DeVriesは治療やケアについての意思決定の流れは、“小さな実験”をする際の推論過程と類似した過程であるとしている。つまり、実験を行うときの「疑問」→「仮説の設定」→「信頼性・妥当性の高いデータの収集」→「結果を解釈」→「結論を導く」→「次のアクションに継げていく」という推論過程は、臨床における「患者の問題点の整理」→「診断(介入対象の同定)」→「治療」→「結果の解釈」→「結論を導く」→「さらなるアクションに継げていく」という流れに類似しているとしている(Br. J. clin. Pharmac.(1993),35,581-586)TLCのモデルではこれにさらにShared Decision Makingの考えを取り入れ、治療の項を「治療の選択枝の列挙」、「介入のゴール設定」、「介入の意思決定」の3段階に分けている。まとめると下記のような流れとなる。

 

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 この過程はTLC modelにおける『介入内容決定過程』から『介入と評価の過程』の層として組み込まれている。そしてこのような過程を踏んで決められた治療の効果を患者との対話を繰り返して実施していくことで情報収集や整理をし、改めて鑑別診断や重症度、治療内容を吟味しなおすことがある。

 

 治療決定の際に行われる「インフォームド・コンセント」とは、対象者がこれらの治療内容決定のプロセスを踏まえた正確な説明を十分に受けた上で、自由意思に基づいて医療者と方針を“合意”する過程のことを指す。さらに、患者と対話をした上で、患者の倫理観や宗教観、個人的嗜好といった本人にとって重要な価値を含めて治療内容を“判断”していく過程を「shared decision making」と呼んでいる。この際、医療者側は予め治療の臨床推論を行った上で、医療者が最も推奨する案を提示できるようにしておくことが肝要である。

 また、救急診療においてはこのインフォームド・コンセントの過程を踏まず、緊急性があることを踏まえ、医療者側の判断で意思決定をせざるを得ないこともあり、これは前回の記事を参照していただきたい。

 


★11月18日の第7回VBPワークショップ@東京大学は引き続き募集をしております。皆さん奮ってご参加下さい!申し込みの詳細は以下の記事よりお願いします。

募集:第7回価値に基づく診療実践ワークショップ参加者募集のご案内 - VBP的臨床推論