VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

VBPはどう用いればよいか

2年ぶりぐらいに,少しこのブログも動かしてみようと思います.VBPはどのように用いればよいか,どの程度役に立つかについて,なかなか現実的な説明が難しいなと思っていたのですが,ようやく整理がついてきた気がしたので.

自分がVBPを学び,臨床実践に向かう際に意識するようになったのは,

①改めてevidence-based practiceとは何か,EBMと同じなのか違うのか

②事例の複雑性や困難事例,多疾患併存状態(multimorbidity)とどう関連するか

③ネガティブな価値とポジティブな価値をどう捉えるのか

④VBPを踏まえた臨床推論は,それまでの臨床推論の議論とどう違うか

⑤死にまつわる意思決定はどのような要点があり,どう進めるとよいか

といった点です.また,VBPワークショップもこれまで展開してきましたが,いずれも模擬多職種事例カンファレンスという方略を用いてきたので,今後異なる方略の開発も必要だなと感じています.

これらの枠組みは,現在積極的に取り組んでいる看護師の特定行為研修,医療・福祉・介護・保健関連職種の共通基礎課程にも積極的に取り込むようにしています.上記の①~⑤については,後に詳述していきたいと思います.

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治療やマネジメント,そのモニタリングを含めた医療専門職の臨床推論の概念図

 

御礼:第7回VBPワークショップのご報告

 11/18()東京大学本郷キャンパスにて第7VBP実践ワークショップを開催いたしました。
 今回から新しい企画として、模擬患者さんとの「2回目」の多職種カンファレンスの時間を設けました!1回目の多職種カンファレンスの省察を活かして、2回目の多職種カンファレンスに挑んでいただく時間になります。

これは皆様の感想の中でも好評をいただけたようで、主催者も事前カンファレンスでは多職種の“values(価値観)”の違いを実感し、1回目の多職種カンファレンスでは模擬患者(ご家族)さんの“values(価値観)”を把握し、最後にはICE-SARを考慮して意思決定まで結びつける、という一連の流れが出来上がってきたと感じています。
 医師・獣医師・看護師(助産)・薬剤師・医療系学生など様々な職種の皆様にご参加いただき、下記の目標とコンテンツで開催いたしました。

 

ワークショップの目標

  1.  価値の多様性が重要であると認識する。
  2.  多職種での議論の重要性と難しさを認識する

 

コンテンツ

  • レクチャー「価値に基づく医療1」
  • 模擬多職種カンファレンス(前半)
  • 模擬多職種カンファレンス(後半 1回目)
  • レクチャー「価値に基づく医療2」
  • 模擬多職種カンファレンス(後半 2回目)

 

参加者の皆様のご感想

・勉強になりました。実際に実行したい。

2回できたことはとてもよかったです。見直しのチャンスをいただけた気がします。

・実際の難しさ(書籍ではわからない)や人と人との考え方をコンセンサスしない難しさを垣間見ることができました。

・普段行っている意思決定支援の際に感じる”もやもやとした感じ”の背景に医療者の価値観が関与している可能性を実感した。

 

次回は、来年2月10日~11日に東京大学本郷キャンパスにて開催されます日本プライマリケア学会 第13回若手医師のための家庭医療学冬季セミナーにてワークショップを予定しております!本セミナーに参加される方はぜひ奮ってご参加下さい!

治療における臨床推論②

前回は治療内容を決定するまでの大まかな推論プロセスを見てきたが、実際の現場では決定した治療やマネジメントを開始したあとから、再度情報収集や整理をし、鑑別診断や重症度、治療内容を吟味しなおすことがある。TLC modelで言い換えると『介入と評価の過程』の結果をうけてから、『介入対象同定過程』ならびに『介入内容決定過程』に影響を及ぼすことがある。

このような形をとる最たる例として、「治療的診断(=診断的治療)」があり、今回はこれについて詳しくみていこう。

 

治療的診断とは、いくつかの診断仮説のうち、ある特定の診断を対象にしてその治療を行い、効果があればその診断と考えてよいだろうと結論づけるプロセスである。例えば、慢性咳嗽の患者において、ステロイド吸入を開始して改善すれば咳喘息、ヒスタミンH1受容体拮抗剤を投与して改善すればアレルギー性鼻炎による後鼻漏症候群、PPIを投与して改善すれば逆流性食道炎などと判断する。

 

治療的診断が行われるのは以下の条件を満たす場合とされている

1.     病歴、診察、検査によって診断が確定しにくい、または治療による副作用が診断の確度を高めなければならないほどは大きくない

2.      鑑別すべきほかの診断と効果が重ならない

3.     治療効果の指標となる症状や所見がフォローアップしやすい

 

これらの条件については個々の患者によって、背景、挙げられる鑑別診断、重症度、検査に伴うリスク、フォローアップ可能な状況かどうかなど状況が異なってくるため、1つ1つ個別に検討していく必要がある。例えば、健常者では今後も長く生きることを考えると行っておくべきスクリーニングや予防的介入であったとしても、超高齢者や終末期の患者においては、検査にかかる苦痛や合併症が強い場合は検査よりも治療的診断が優先されるかもしれない。

また、この診断過程は注意すべき点があり、プラセボ効果や自然経過での軽快により、実際には効果がないのにも関わらず「効果あり」と考え、想定した診断を確定してしまうことは誤診の原因につながる可能性がある。このような「使った、治った、効いた」という「3た論法」に陥っていないかは常に振り返る必要があり、どのような経過で改善したのか長期的な経過をみてみないとわからないことも多いことは注意が必要である。

 このように、治療のおける臨床推論では、『介入対象同定過程』、『介入内容決定過程』、『介入の評価の過程』が同時にかつ相互に影響して変化するダイナミックなものであることが分かっていただけたと思う。

 

 

参考文献:Glasziou P, Rose P, Heneghan C, et al : Diagnosis using "test of treatment". BMJ. 338: b1312. 2009

 

1118日の第7VBPワークショップ@東京大学は引き続き募集をしております。皆さん奮ってご参加下さい!申し込みの詳細は以下の記事よりお願いします。

募集:第7回価値に基づく診療実践ワークショップ参加者募集のご案内 - VBP的臨床推論