価値への気づき
VBPの4つの臨床スキルのうち、1つめは価値への気づき(awareness of values)である。これは、読んで字のごとく、「その人」の価値に気づくこと、そのものであるが、実は奥深い。「その人」は、もちろん患者であっても良いし、その家族でも良い、医療チームの同僚であることもあり得る。そして、臨床家自身でもある。すなわち、患者やその家族との関わり、多職種チーム内での議論、臨床医の自己省察など、当人のケアのプロセスに関係し得るすべての人の価値の多様性を認識すること、そして臨床家自身の価値に気づくこと、が「価値への気づき」である。
卒前・卒後の医療面接教育では「解釈モデル」が重要な聴取項目として教授されているが、これは、Pendleton(1984)やNeighbour(1987)らが提唱したIdea(考え)、Concern(心配)、Expectation(期待)という患者の価値に関連する内容を引き出す「ICE」と呼ばれるスキルに裏打ちされている。
一般にICEはネガティブな価値(患者から医療者へのニーズや解決すべき困難事など)を反映することが多いが、患者のポジティブな価値への配慮も重要である。VBPではそのポジティブな価値として以下の3つの要素を挙げ、それらをまとめてStAR価値と呼んでいる。
1. 強さ(Strengths)
2. 志(Aspirations)
3. 資源(Resources)
患者の回復には、StAR価値のなかでは特に、志(Aspirations)が重要とされる。日常診療においてソーシャルワーカーやヘルパー、ときには家族の些細な一言が診療の方針決定に大きく寄与することがある。
「そういえば、(本人が)元気なときに・・・なことを言っていました。」
「うちの人は・・・なふうに生きてきたんです。」
このような患者の身近な人から発せられた言葉により、当人のStAR価値に対する気づきが促され、バランスのとれた意思決定に向かって劇的に舵が取られた臨床経験された方も多いだろう。また、熟練した医師が意思決定の重要な局面でStAR価値への気づきを促すmagical wordsを繰り出した場面を思い浮かべられる方もいるかもしれない。
このStARへの気づきは、今後解説するVBPの10のプロセスの『4.コミュニケーション技法』や『5.当人中心の診療』、『6.多職種チームワーク』と密接に関わる。