VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

治療における臨床推論②

前回は治療内容を決定するまでの大まかな推論プロセスを見てきたが、実際の現場では決定した治療やマネジメントを開始したあとから、再度情報収集や整理をし、鑑別診断や重症度、治療内容を吟味しなおすことがある。TLC modelで言い換えると『介入と評価の過程』の結果をうけてから、『介入対象同定過程』ならびに『介入内容決定過程』に影響を及ぼすことがある。

このような形をとる最たる例として、「治療的診断(=診断的治療)」があり、今回はこれについて詳しくみていこう。

 

治療的診断とは、いくつかの診断仮説のうち、ある特定の診断を対象にしてその治療を行い、効果があればその診断と考えてよいだろうと結論づけるプロセスである。例えば、慢性咳嗽の患者において、ステロイド吸入を開始して改善すれば咳喘息、ヒスタミンH1受容体拮抗剤を投与して改善すればアレルギー性鼻炎による後鼻漏症候群、PPIを投与して改善すれば逆流性食道炎などと判断する。

 

治療的診断が行われるのは以下の条件を満たす場合とされている

1.     病歴、診察、検査によって診断が確定しにくい、または治療による副作用が診断の確度を高めなければならないほどは大きくない

2.      鑑別すべきほかの診断と効果が重ならない

3.     治療効果の指標となる症状や所見がフォローアップしやすい

 

これらの条件については個々の患者によって、背景、挙げられる鑑別診断、重症度、検査に伴うリスク、フォローアップ可能な状況かどうかなど状況が異なってくるため、1つ1つ個別に検討していく必要がある。例えば、健常者では今後も長く生きることを考えると行っておくべきスクリーニングや予防的介入であったとしても、超高齢者や終末期の患者においては、検査にかかる苦痛や合併症が強い場合は検査よりも治療的診断が優先されるかもしれない。

また、この診断過程は注意すべき点があり、プラセボ効果や自然経過での軽快により、実際には効果がないのにも関わらず「効果あり」と考え、想定した診断を確定してしまうことは誤診の原因につながる可能性がある。このような「使った、治った、効いた」という「3た論法」に陥っていないかは常に振り返る必要があり、どのような経過で改善したのか長期的な経過をみてみないとわからないことも多いことは注意が必要である。

 このように、治療のおける臨床推論では、『介入対象同定過程』、『介入内容決定過程』、『介入の評価の過程』が同時にかつ相互に影響して変化するダイナミックなものであることが分かっていただけたと思う。

 

 

参考文献:Glasziou P, Rose P, Heneghan C, et al : Diagnosis using "test of treatment". BMJ. 338: b1312. 2009

 

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