VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

治療における臨床推論①

しばらく期間が空いてしまったが、臨床推論(clinical reasoning)についての基本的な理論の話の続きとして、「治療における臨床推論」について前回までの復習と一緒に見ていこう。

 

まず、前々回の復習になるが、臨床の流れとして、①診断 → ②介入(治療・マネジメントなど) → ③介入後のモニタリング、と変化していき、これらの推論の過程はそれぞれ、①『介入対象同定過程』 → ②『介入内容決定過程』 → ③『介入と評価の過程』と各層に分けることができた。そして、これらの層は完全に独立しているわけではなく、経験豊富な優秀な医師であれば、①の層において②や③の層のことも同時に相互に考えることができ、この認知モデルはThree-Layer Cognitive(TLC) Modelとして表現できた。

 

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今回は特に『介入内容決定過程』から『介入と評価の過程』に関わる「治療における臨床推論」に着目してTLCモデルを詳しく見ていこう。

 

DeVriesは治療やケアについての意思決定の流れは、“小さな実験”をする際の推論過程と類似した過程であるとしている。つまり、実験を行うときの「疑問」→「仮説の設定」→「信頼性・妥当性の高いデータの収集」→「結果を解釈」→「結論を導く」→「次のアクションに継げていく」という推論過程は、臨床における「患者の問題点の整理」→「診断(介入対象の同定)」→「治療」→「結果の解釈」→「結論を導く」→「さらなるアクションに継げていく」という流れに類似しているとしている(Br. J. clin. Pharmac.(1993),35,581-586)TLCのモデルではこれにさらにShared Decision Makingの考えを取り入れ、治療の項を「治療の選択枝の列挙」、「介入のゴール設定」、「介入の意思決定」の3段階に分けている。まとめると下記のような流れとなる。

 

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 この過程はTLC modelにおける『介入内容決定過程』から『介入と評価の過程』の層として組み込まれている。そしてこのような過程を踏んで決められた治療の効果を患者との対話を繰り返して実施していくことで情報収集や整理をし、改めて鑑別診断や重症度、治療内容を吟味しなおすことがある。

 

 治療決定の際に行われる「インフォームド・コンセント」とは、対象者がこれらの治療内容決定のプロセスを踏まえた正確な説明を十分に受けた上で、自由意思に基づいて医療者と方針を“合意”する過程のことを指す。さらに、患者と対話をした上で、患者の倫理観や宗教観、個人的嗜好といった本人にとって重要な価値を含めて治療内容を“判断”していく過程を「shared decision making」と呼んでいる。この際、医療者側は予め治療の臨床推論を行った上で、医療者が最も推奨する案を提示できるようにしておくことが肝要である。

 また、救急診療においてはこのインフォームド・コンセントの過程を踏まず、緊急性があることを踏まえ、医療者側の判断で意思決定をせざるを得ないこともあり、これは前回の記事を参照していただきたい。

 


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募集:第7回価値に基づく診療実践ワークショップ参加者募集のご案内 - VBP的臨床推論