VBP的臨床推論

価値に基づいた診療(Values Based Practice: VBP)を学ぶ

どのようにして患者の価値を聴き出すのか?〜キラリと光るICE-StARの尋ね方〜

  •  前回前々回で、価値を引き出すスキルとしてICE-StARを事例をもとにご紹介した。

「では、どのようにしてICE-StARを聴き出すのか?」と疑問に思われた方も多いとだろう。そこで、今回は医療面接でのICE-StARの具体的な尋ね方をお示ししたい。

 

Ideas(考え)

  • どのようにして今の状態に至ったとお考えですか?
  • 今の状態は治療を要すると考えていらっしゃいますか?

Concerns(心配)

  • 今の状態を抱えての生活に、どんな心配がありますか?
  • 治療の選択肢について、どんな心配がありますか?

Expectations(期待)

  • あなたの担当医療職として、私にどのようなことを期待されていますか?
  • 医療関係者にどのようなことを期待されていますか?

 

Strengths
(強さ)

  • 自慢できるようなスキルはありますか?
  • 人生においてこれがあったから、これまでやって来られたというものはありますか?
  • ケアにおいてこれがあったから、これまでやってて来られたというものはありますか? 

Aspirations
(志)

  • どのようになりたいですか?
  • 今後10年の間に何を成し遂げたいとお思いですか? 

Resources
(資源)

  • あなたのケアを手伝ってくださるご家族やご友人はいますか?
  • スピリチュアル、宗教的、文化的などのコミュニティと何らかのつながりを持っていますか? 

 

 また、Peter Tateが情報を引き出すスキルとして紹介しているチェックリストも有用である。(Tate. The Doctor’s Communication Handbook,1994; pp.67-68.)

  • 患者に合わせた言葉遣いをする。見下した表現をしない。専門用語の使用は避ける。
  • 最初の時点で,患者は常に正しいことを忘れない。
  • まず患者に話してもらう。
  • よい質問となるようないい方をする。例えば「○○○かどうか知りたいと思っていたのですが…?」というような方法でたずねる。
  • オープンクエスチョンで、例えば「◯◯について話していただけますか?」というように聞く。これは患者の考えや価値を知るのに役立つ。
  • クローズドクエスチョンで聞く。これは事実を知りたいときに便利である。
  • 話を促す。例えば「(話)を続けて」というように。アイコンタクトや頷きなども患者にとっては促しとなる。
  • 患者が言ったことを確認する
  • 質問をする理由を説明する
  • 沈黙を使う。間をとる。しばらく黙って待っていると患者は必ず話し始める。

第1回 価値に基づく診療(Values-based practice)実践ワークショップ参加者募集します

 

  • 日時

 平成28年9月14日(水)13:30~16:30(13:00受付開始)

  • 会場 

 東京大学医学部総合中央館(医学図書館)3F 333会議室

 http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_02_01_j.html

  • 募集人数:20名(先着順)
  • 参加費:無料
  • 概 要

 VBP(values-based practice:価値に基づく診療)は、患者医師関係において行われる臨床上の意思決定を改善する方法論です。

 EBMを重要なパートナーとしながら、NBM、臨床倫理やプロフェッショナリズムといった分野を包含します。またコミュニケーション技法を重要なスキルとして、治療やマネジメントに関する臨床推論にも適応可能とされています。 

 このワークショップは、参加者の皆様がVBPの10のプロセスを習得し、明日からの実臨床に応用できることを目標として企画されています。

 皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

  • オーガナイザー

 東京大学医学系研究科 医学教育国際研究センター講師 大西弘高

  • 参加登録

 参加をご希望の方は、メールで、

 segawa-seiko@umin.ac.jpまで、以下をご記入の上お申込みください。

  1. ご氏名(ふりがな)
  2. ご所属
  3. 専門分野
  4. 卒後年数
  5. メールアドレス
  • 参考学習資料

書籍 大西弘高, 尾藤誠司. 価値に基づく診療 VBP実践のための10のプロセス. MEDSI.

(書籍の購入は必須ではありませんが、お持ちの場合はご持参ください。)

 

【主催・連絡先】

東京大学医学系研究科 医学教育国際研究センター

〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 医学部 総合中央館 2F

電話: 03-5841-3583 (担当:瀬川)

E-mail: segawa-seiko@umin.ac.jp

ICE-StARに注目した価値に基づくこどもの発熱診療〜Episode 2〜

前回〜Episode1〜より続く。

 

星先生:「先生、ICE-StAR勉強してきました!」

郡先生:「お、いいね〜。あの事例のICE-StARを挙げていこうか。まずはICEを書き出してみて」

 

Ideas(考え)

:高熱はこどもの頭に良くないのでは。

Concerns(心配)

:高熱でこどもに障害がでるかもしれない。明日は仕事をどうしても休めない。

Expectations(期待)

:高熱がこどもの頭に何か悪い影響があるのか知りたい。明日は絶対に仕事に行きたい。

 

郡先生:「いいね。次、StARは?」

 

Strengths(強さ)

:児を一晩中寝ずに看病できる精神力や体力がある。

Aspirations(志)

:早く元気になってもらいたいという母の想い、愛情。

Resources(資源)

:しっかりした祖母がいる。

 

郡先生:「いいじゃない。テキストによるとね、ICEっていわゆる解釈モデルと同じなんだって。でも、ICEはネガティブな価値なことが多いんだよね。不安な人に共感するって必ずしも良いことだけじゃない。そこでStARが効いてくるわけ。これはポジティブな価値だから、これをうまく使うと共感だけじゃなくて支援できる。」

星先生:「ICE-StARはどんな感じで使うんですか?」

郡先生:「ICEで共感して、同時にStAR価値を使って支援するコメントをすればいいんだと思うよ。ICE-StARの情報が取れていることが前提だけどね。試しにロールプレイやってみる? 俺、お母さん役。病歴と診察をして、説明するところからやってみようか。」

 

====ロールプレイ====

星先生:さすがに40度くらい熱が高いと心配ですよね。

母親役の郡先生:はい。 こんな高熱初めてなので。頭に後遺症が残ったりしないかと思って・・・。

星先生:心配な様子はよく分かります。診察させていただきましたが、熱の原因はヘルパンギーナという夏風邪の一種で間違いないと思います。のどの腫れ方に特徴があって、診察で診断できます。

母親役の郡先生:先生、その病気を早く治す方法はあるんでしょうか?

星先生:ですよね。早く良くなってほしいですよね。そういうお気持ちとても大事だと思います。ヘルパンギーナはウイルスによる感染症なので自分の免疫力だけで3日程度で自然に熱は下がっていくので、特別な治療は必要ないと言われています。

母親役の郡先生:この熱はどうしたら、いいんでしょうか?

星先生:熱はどうしても心配になってしまうものですが、普段通りの元気さや食欲があるか、遊べるかなどの方が大事と言われています。今、こうやっておもちゃで遊べたりできているのを見ると、医者としても大丈夫だなと判断できます。今後も同じようにできているようなら、特別に心配することはないでしょう。

母親役の郡先生:明日も熱があったら保育園休んだ方がいいでしょうか。

星先生:お母さん、お仕事されてますか?

母親役の郡先生:はい。明日は絶対外せない仕事があります。

星先生:お祖母様は日中見てくださる感じですか?

母親役の郡先生:はい、大丈夫だと思います。

星先生:それは心強いですね。ヘルパンギーナは熱が長く続くことがあって、看病されているご家族の方が疲れてしまうことがあるんですが、お母さん、大丈夫そうですか?

母親役の郡先生:はい。体は丈夫な方です。母にも手伝ってもらえるので。

星先生:1つ心配なのは、のどの痛みが強くなることです。水分を摂れなくなる子がいるので、水分が摂れなくなったり、ぐったりしてきたりしたらまた受診してください。

母親役の郡先生:分かりました。説明いただいて安心しました。

====ロールプレイ終わり====

 

郡先生:「いい感じだね」

星先生:「ICE-StARいいですね。外来をこなすだけじゃなくて患者さんをサポートできた感じがします。」

郡先生:「今後、ワークショップあるみたいだよ。行ってみたら?」

 

 VBPでのコミュニケーション技術の一つであるICE-StARの使い方を事例に基づいて解説した。次回は、ICE-StARの情報をどのように患者から引き出すのか、を考えてみたい。